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「社員全員がプロデューサー」放送新時代に向け独自性をだす。

株式会社熊本放送
代表取締役社長 上野 淳

更新日:2020年6月17日

大阪府出身。熊本大学工学部卒。1977年に同社に入社後、経営戦略室長兼部長、技術局長兼デジタル推進室長などを経て、2018年6月から現職。
※所属・役職等は取材時点のものです。

地域のパフォーマンスを上げることがローカル放送局の存在意義。

2020年で開局67年、テレビ放送開始からは61年と熊本では最も老舗のラテ(ラジオテレビ)兼営民間放送局です。良い意味で保守的でオーソドックス。報道に重きを置いて、正確な情報を素早く届けることを心掛けています。

私はローカル局に最も必要とされているのは地元の情報を届けることだと考えています。そこで地域住民に親しまれていること、信頼されていることはとても重要で、地域とのネットワークの広さ・深さを大切にしています。

熊本は他地域と比較して自社制作番組やイベントが多い地域と言えます。他局との競争が激しい土地でもあるため、特色を打ち出していく必要があります。当社においてもテレビ番組の自社制作率は約10%、ラジオは約50%と高く、平日夕方の生放送番組「夕方LIVEゲツキン!」をはじめ地域に密着した数々の番組を制作しています。地域に密着した自社制作番組やイベントを通して、経済面だけでなく文化面でも地域に貢献し、都市のパフォーマンスを上げていく働きかけをすることがローカル局の存在意義だと考えています。

また現在の熊本は2016年の地震で被害を受け、「熊本はもうダメじゃないか」というところからの再出発です。テレビやラジオ放送を通して熊本県民の皆さんとともに復興に向けて走って行きたいと考えています。

他局とのコラボキャンペーンなど柔軟な発想が大事。

2019年から2020年の3月まで熊本朝日放送(KAB)さんとのコラボキャンペーン「RKKAB」を展開しました。当社のテレビ開局60周年、KABさんの開局30周年を記念した企画です。両局の生放送番組やイベントにMCがそれぞれ出演するなど、これまでにない取り組みを行いました。

元々くまもと県民テレビ(KKT)さんとのコラボやテレビ熊本(TKU)さんとの共同生放送の経験があり、現場から「やってみませんか?」と提案が上がってきたのです。若者のテレビ離れが進む中、若者をターゲットとした番組を中心にコラボしました。映像の使用権が限られているスポーツなどでの共同取材はあっても、「RKKAB」のような自由なコラボは非常に珍しく、業界内でもインパクトがあった企画だったと思います。社員間でもお互いのカルチャーに触れ、良い刺激になったと思いますし、特に若い視聴者の方にとってはテレビの楽しさを再発見していただく機会となったのではないでしょうか。

直近では2月に「RKKAB」の一環として熊本県知事選挙のWEB討論会を実施しました。テレビ放送ではなく敢えてYouTube上のRKKABオフィシャルチャンネルで発信し、見逃し配信も含めて7日間で11,000以上のアクセスがありました。メディア視聴環境が変化する中でも、県内外への情報提供は報道機関の責務だと考えています。

「放送新時代」に向けて社員の意識改革にも取り組む。

私は2020年を「放送新時代」という言葉で表現しており、放送環境の変化が大きい年になると考えています。一つはNHKが2020年の4月からネットで常時同時配信を始めることが大きなきっかけとなり、民放へも常時同時配信の流れが広がると予想されます。地方でキー局の番組を放送する必要が無くなってしまう可能性があり、全国放送の一端を担っていたローカル局の役割を失ってしまうのではという危機感があります。しかし、地元の情報を全国に発信する機能はいつまでも必要とされると確信しています。

ラジオでは既にインターネットで番組を配信する無料スマホアプリ「radiko(ラジコ)」が若者を中心に普及していますし、インターネットラジオとFM放送の両方でラジオが聞けるスマートフォン「ラジスマ」なども出てきており、視聴方法の多様化への対応が必要になってくると思います。

しかし逆に考えれば、我々としてもテレビ、ラジオに加えてネットという新たな伝送手段を持つことになり、日本全国、また世界に向けても発信できる環境が整う可能性があると言えます。この環境をローカル局としてどのように活かしていくかが重要になってきます。

「若者のテレビ離れ」といった問題に対して、常時同時配信は最も若者に近いデバイスであるスマホにアクセスできるようになるため、ある意味ではチャンスと捉えて対応していきたいと思います。当社ではメディア推進部が常時同時配信の研究を行っており、対策を検討している状況です。いずれ同時配信を想定して動き出す必要があると考えています。

放送業界の変化に対応していくと同時に、新たなビジネスへの投資も考えています。2018年にビジネス開発局を立ち上げ、新たなビジネスを模索するべく、不動産事業部を置いています。常時同時配信の研究を行うメディア推進部と、放送に関わる様々なシステム構築を担うシステム部もビジネス開発局に置き、先を見据えて、様々な変化に対応できるよう体制を整えています。

「社員全員がプロデューサー」という意識で仕事を楽しんでほしい。

社内で「アイディアストーム」を実施しています。番組やイベント・新規事業のアイデアなどを、従業員からだけでなく番組制作スタッフやグループ企業も含めて募集する企画コンペです。放送局の仕事は様々な場面でアイデア勝負になります。部署は関係なく、会社全体でアイデアを出していく意識改革を楽しみながらできるようにしたかったのです。

取り組みの初年度(2019年)は47件のアイデアが集まり、「こんなに良いアイデアがあったのか」と感心しました。その中からミニ番組の制作と、「RKKカフェ」設置の2案を採用し、現在プロジェクトチームを組んで進めているところです。「RKKカフェ」は、社内の労働環境改善にもなると思い社内でスペースの検討をしています。「アイディアストーム」をきっかけに、「社員全員がプロデューサー」という意識で仕事を楽しんでほしいと思います。今後も継続して実施していきたいですね。

一緒に熊本の活性化に貢献してほしいと思います。

基本は新卒採用が中心ですが、中途採用にも力を入れています。私の人事方針として、入社3年間で3つほど部署を経験してほしいと思っています。向き・不向きを早い段階で見極めた方が良いと思いますし、色々な部署を経験することは決して無駄にはなりません。あまり決めつけずに、人事配置は柔軟に行います。

中途採用では、第一級陸上無線技術士資格をお持ちのUターン希望の方を放送技術職として採用しました。営業職も同業界に限らず、異業種からであっても新しい考え方を持っていていいかもしれません。放送局はクリエイティブな仕事が多いので、元気の良い、発想の豊かな方に来ていただきたいです。

熊本は自然・歴史・文化に恵まれ、人々もあたたかく暮らしやすい土地だと思いますが、数年先の将来に向けても希望の持てるところだと思います。熊本地震の前から計画されていた経済イベント…熊本市桜町地区の再開発事業や熊本駅周辺の再開発事業、阿蘇くまもと空港の新ターミナル建設など、震災後も予定通り着々と進んでいます。サクラマチが完成して、元々人通りの多かった中心市街地がさらに賑やかになっていますし、今後熊本駅周辺の再開発事業が完了すると県外からも人を呼び寄せる環境が整う上に県内需要の掘り起こしにも繋がるため、より盛り上がりますよね。

元々熊本県人には「熊本を皆で盛り上げよう」という気概が強いと感じていましたが、熊本地震をきっかけに、より結束感が強くなったと思います。ぜひ熊本に刺激を与えてくれるような方々に帰ってきてもらい、一緒に熊本の活性化に貢献してほしいと思います。

編集後記

チーフコンサルタント
田尻 由美子

デジタル・ネイティブ世代が増え「テレビ離れ」「ネット志向」が進む中、テレビとインターネット、SNS、ラジオとアプリなど複数のメディアを組み合わせ放送新時代に向けた取り組みを行っている同社。放送局の心臓部とも言える技術部門においては若手が不足しており、10年後を見据えた次世代の組織づくりを図る必要性を感じられていました。

今回ご採用頂いた方は第一級陸上無線技術士の資格や通信ネットワーク構築の経験を持つ電力会社出身の通信技術者になります。放送局という専門性の高い業界ですが、異業種・異職種でもご活躍いただけるポジションがあることを改めて実感した採用となりました。今後も高い自社制作率を誇る地域コンテンツの企画・発信力を強みとして、熊本を代表する情報発信を続けて頂きたいと思います。

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