株式会社再春館製薬所
菅野幸介さん(海外事業推進) 37歳
海外から熊本への移住。仕事のやりがいはそのままに、家族との幸福度は大幅アップ。
中国・上海から熊本に転職した菅野さん。中国では電子部品メーカーや経営コンサルタントの社員として、約12年間、現地組織の立ち上げや市場開拓に力を注いできた。
ゼロからビジネスを立ち上げていく仕事はやりがいに満ちていたが、その一方で、海外生活が長期化するにつれ、悩みも感じるようになってきたという。中国では毎年のように物価が上昇。また仕事は毎日忙しく、家族との時間もほとんどとれない生活が続いていたからだ。
なにより気がかりだったのは、子どもの教育環境。「これからどこで育てていくべきなのか」-夫婦で悩んだ末に出した結論は、妻の地元である熊本への移住だった。しかし、「海外の仕事」にはこだわりたい。
そんな菅野さんに、地元企業に精通したコンサルタントが勧めたのは、化粧品メーカーの海外事業部だった。「仕事のやりがい」と「家族の幸せ」。その両立に挑戦した菅野さんの転職体験談を紹介する。
※本記事の内容は、2017年10月取材時点の情報に基づき構成しています。
- 過去の
転職回数 - 2回
- 活動期間
- エントリーから内定まで40日間
転職前
- 業種
- コンサルタント業
- 職種
- 経営コンサルタント
- 業務内容
- タイのバイオマス発電市場調査、ヨーロッパ小売市場 IT 設備サプライチェーン動向調査等、複数の大手メーカーの海外市場調査の策定および実行に携わり、クライアントの海外事業戦略の構築コンサルティングに従事。
転職後
- 業種
- 化粧品メーカー
- 職種
- 海外事業部
- 業務内容
- 中国・シンガポール・マレーシア・ミャンマーなど現地法人(台湾、香港)がない国での事業展開の可能性の調査や立上げ準備を担当。
最初は家族だけ熊本へ移住。しかし単身赴任のデメリットを実感し、1年で家族のもとへ。
現在のお仕事はどんな内容ですか?
「ドモホルンリンクル」のブランド名でおなじみの化粧品メーカー、再春館製薬所の海外事業部で働いています。仕組みとしては非常にシンプルで、自社で用意した海外専用サイトの注文を、EMSで発送するというものです。
当社のものづくりの基本には「漢方」の理念があるのですが、この理念が通じる中華圏・華僑の方を中心に広がっています。現在は、宣伝広告を打つのではなく、実際に現地で商品を体験していただき、現地の女性の生の反応を伺う活動を続けています。
ドモホルンリンクルについて何も知らない海外の方に、どうすれば当社の想いや製品の良さを伝えていけるか。そして、次にドモホルンリンクルが受け入れられそうな新しい国はどこか。それを考えるのが我々の役割であり、この仕事の醍醐味だと感じています。
入社前のご経歴を教えてください。
沖縄の大学を卒業後、熊本にある半導体メーカーに就職。そこでLSIの開発を2年半経験した後、大手電子部品メーカーへ転職、上海へ出向しました。
現地では画像処理ICグループやマーケティンググループなどの設立、現地スタッフの採用、教育などを担当。最終的には本社の携帯電話事業計画に参画し、携帯電話市場において、グローバルな視点で売り上げ目標を策定したり、LSI開発計画などにも携わっていました。
その後、中国進出に力を入れていた経営コンサルタント企業に転職。上海の現地法人設立や、さまざまなプロジェクトの立ち上げ、市場開拓に取り組みました。
転職のきっかけは?
仕事自体はやりがいがありましたが、次第にプライベートでの悩みが出てきました。まずは、子どものことです。子どもが10歳になる頃から、「これからどこで育てていくべきか?」と、真剣に悩むようになりました。
日本語をしっかり身につけさせたいという思いもありましたし、中国の物価の上昇に伴い、現地の学費も高騰していました。日本と同等の牛乳を買おうとすると1本300円、生で食べられる卵は1パック600円。日本水準の当たり前の生活をしようと思うと、非常にコストがかかるんですね。しかも空気はきれいと言えず、治安も心配・・・。
そこで妻と話し合い、まずは家族だけ、妻の実家がある熊本へ移住することにしました。私は上海で単身赴任を続けましたが、1年が限界でした。家事も負担でしたが、なによりも寂しかった。家族と離れているうちに、何のために働いているのかがわからなくなっていきました。それで私も熊本で家族と一緒に暮らそうと、転職を決意しました。
転職活動はどのように進めましたか?
熊本で暮らすことは決めていましたので、「熊本 転職」とネットで検索しました。そこでリージョナルキャリア熊本を知ることになりました。
コンサルタントとの面談では、自分の経歴とともに、これまでのように海外を相手に仕事がしたいという気持ちを伝えました。コンサルタントからは最初、「探してはみますが、熊本にはないかもしれませんよ」と言われました。非常に正直に熊本の現状を話してもらい、信頼できるなと感じました。
そのやりとりを通じて、「本気で海外で働きたいなら、ここ」と紹介されたのが今の会社でした。その後、香港の責任者とオンラインで面接し、会社見学をさせてもらった後に、内定となりました。
今の会社に決めたポイントは?
コンサルタントからも聞いていたのですが、海外展開に対する“本気度”が違うと感じたことです。一般的には海外に現地のコールセンターを作るのが普通ですが、それではサービス品質が一貫性を失ったり、現地のスタッフが自由にルールを変えてしまうことがあります。
しかし、この会社では海外向けのコールセンターも熊本に集約し、自分たちの力で世界に発信していくという姿勢を持っています。私はこれまでの経験から、この姿勢こそが、日本企業ならではの、匠の精神やおもてなしの文化を大切にした、世界最先端のマーケティング手法だと思えたのです。
毎日家族と会話ができるし、熊本は水もきれい。夢のような生活が実現。
転職していかがですか?
とても伝統のある会社なので、最初の半年間は新人のつもりで勉強しました。オンリーワンのものづくりがしっかりできていて、それが全員一丸となって共有できている、いい会社だと改めて思いましたね。
一方で非常にオープンな会社で、社歴に関係なく自由に発言できるので、とても働きやすいです。ですから、今の仕事を担当するようになってからも、どんどん新しいチャレンジをしてきました。
その1つが、今取り組んでいる海外現地での体験会。少し前まで知名度がまったくなかった国で、1ヵ月に数百人の方が新しく買ってくださるようになり、目に見えて成果が出るので、とてもやりがいを感じています。
転職して良かったと思うことは?
いちばん良かったのは、家族と暮らせるようになったこと。しかも毎日、家族と一緒に過ごせる時間が多く持てるようになりました。そのうえ自然がきれい、空気がきれい。仕事のやりがいもあるし、自分の時間も自由につくれるので、本当にいいことばかりです。
困っていることや課題はありますか?
しいていえば、化粧品業界は初めてだった、ということでしょうか。最初は女性の気持ちがなかなかイメージできなかったのですが、研修や仕事を通じて多くの悩みを聞くことができ、とても勉強になりました。
また、収入は半分くらいになったと思います。とはいえ、それも織り込み済みですし、熊本県の給与水準と比較すると、しっかり評価していただいていると感じています。熊本に移住したことで、出費もかなり減っているので、全く問題には感じていません。
生活面の変化はありましたか?
熊本市内で、子どもが通う小学校の前にマンションを買いました。通勤時間は車で約40分。ときどき自転車で通勤することもあります。景色がきれいで、気持ちがいいんです。おまけに健康にもいいので、一石二鳥。おかげで転職してから1ヵ月で5㎏も痩せました(笑)。
業務に関しては、基本的に自分のペースで進めることができるため、20時にはだいたい帰宅しています。以前は、夜中に帰ったり、社内で寝泊まりすることも多く、月に3回くらいしか子どもと顔を合わせることがありませんでした。休みもほとんどとれませんでした。若いうちはそのような働き方でも良かったのですが、「40歳を過ぎたら無理だろう」と自分でも感じていました。
今は毎日家族と夕食を食べられますし、会話もできます。それが一番嬉しいですね。土日も基本的には家族と過ごしています。休日はよく、子どもと一緒に近くの湖に遊びに行っています。夏は泳ぐこともできるんですよ。
熊本は本当に水がきれいで、毎日ミネラルウォーターのお風呂に入っているようなもの。空気はきれいだし、安全だし、中国に住んでいたときのことを考えたら、今は夢のような暮らしだと思っています。
子どもたちも、もともと年に2回は熊本に帰省していましたので、スムーズにこちらの生活に慣れたようです。
転職を考えている人にアドバイスをお願いします。
都会でできることはたくさんあるでしょう。でも、地方だからできることもたくさんあります。たしかに年収は都会のほうが高いかもしれませんが、支出もそれに応じて多い。年収は単なる「ものさし」にすぎないんです。
実際にどんな生活ができるか、それが大事。暮らしやすさや幸福度を求めるなら、地方でも満たされます。私も若いころはプライベートにも刺激を求めていましたが、今は仕事とお客さま、そして同僚から十分に刺激をもらっています。
むしろ、熊本のような自然が多いところのほうが、QOLのためには絶対にいいと、私個人は思いますね。仕事面でも、都会でしかできないことは、今は減っていると思います。当社のように地方にも働きがいのある会社はあります。ぜひ探してみてください。