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現場に立ち、社員と向き合う。創業80年、年商100億を目指す女性社長の挑戦。

株式会社杉養蜂園
代表取締役社長 杉 喜美子

更新日:2026年8月05日

熊本市出身。東京経済大学卒業後、1985年に杉養蜂園へ入社。2007年に取締役(営業統括)、13年に常務取締役(人事部長)、18年に専務取締役を経て、25年4月代表取締役社長(4代目)に就任、現在に至る。
※所属や役職、記事内の内容は取材時点のものです。

この記事でわかること

  • 創業80年、飼育から販売まで一貫する養蜂家企業・杉養蜂園
  • 店舗・海外・商品・デジタルで目指す2034年100億円
  • 国産はちみつを守り、希少な海外産の魅力も伝える
  • 現場に立つ女性社長がつくる、「子どもが優先」の職場
  • ミツバチへの想いに共感し、「自分ごと」で考え動く組織へ

創業者の志と想いを受け継ぎ、4代目社長に就任。

私たちは1946年の創業以来、一貫してミツバチと向き合ってきた養蜂家企業です。飼育から採蜜、製造、販売まで、すべて自分たちの手で完結させているのが私たちのスタイルで、はちみつ・ローヤルゼリー・プロポリスといった健康食品をはじめ、はちみつを配合した自然派化粧品まで、幅広い商品ラインナップを展開しています。

現在、国内に直営店を75店舗構え、グループ全体の従業員数は約500名。海外はシンガポール・タイ・香港・ニュージーランドにグループ企業があり、催事展開も行っています。2026年3月期の売上高は67億円です。

杉養蜂園の店舗では、必ず試飲・試食からお客さまとの関係が始まります。はちみつを水で割ってドリンクにして「どうぞ召し上がってください」とお渡しする。そうすると「美味しい」「身体にも良さそう」と喜んでくださる。そのお客さまの笑顔こそが、この仕事の原点なんです。商品力がお客さまとのご縁をつないでくれるというのが、私たちの誇りです。

私が社長に就任したのは2025年4月のことです。幼い頃から父(創業者)に養蜂の現場に連れて行ってもらい、学校から帰れば「紙と鉛筆を持ってこい」と言われて原価計算を教えてもらいました。学生時代には母と一緒に百貨店の催事でお客さまに販売することもありました。

ですから、この仕事の一から十まで全部わかっているつもりでいたし、ずっと社長をやりたいという気持ちが心の奥にあったんです。2022年に父が亡くなり、創業者の志と想いを受け継ぎたいと願う中で、息子(現副社長)から「お母さん、やってみたら」と背中を押してもらって実現しました。

2034年100億達成へ。店舗・海外・商品・デジタルで年率5%成長し続ける。

2034年に年商100億円。これは前社長の時からの目標でもあります。私が社長の間にできるかどうかはわかりませんが、達成できると信じています。年率5%ずつ積み上げていく計算で、焦らず着実に、でも確実に手を打っていくことが大事です。直近3期は過去最高の売上実績を更新できています。これに満足せず、次の一手を打っていきます。

具体的には四つの打ち手を考えています。まず一つ目は店舗戦略の転換です。これまでは年3店舗ずつ新規出店してきましたが、「よほど良い物件があれば出店する、そうでなければ既存店の充実を図る」という方針に切り替えました。

2025年は太宰府・富士河口湖・川越など5店舗をリニューアルし、採算の合わない東京の2店舗は思い切って閉鎖しました。インバウンド需要の拡大もあって、観光地の店舗を中心に計画を上回る結果が出ており、杉養蜂園を知っていただくきっかけとして店舗の重要性を改めて感じています。

二つ目は海外・業務用展開です。2026年、フィリピン・マニラでのフランチャイズ1号店に向けて準備を進めています。現地の事業経営者の方がお客さまとしてご来店されたことがきっかけで、「ぜひ取り扱いたい」とフランチャイズ契約に至りました。これが当社の商品力の証だと思っています。

有名なカフェチェーン店や海外企業からも私たちの商品を使ったメニューを作りたいという引き合いもいただいており、業務用展開にも力を入れていきます。シンガポール・台湾での企業向け大型商談会への出展も予定しています。

国産はちみつを守り、世界の希少品を届ける。商品開発と原料調達の新戦略。

三つ目の打ち手は商品開発・原料調達の強化です。国産はちみつを届けることが私たちの命題ですが、気候変動の影響で採蜜が年々厳しくなっています。そのため、北海道や秋田県など、養蜂拠点を全国に広げています。以前から関係の深い北海道・浜中町では地域の方々との植樹活動を継続し、ミツバチの過ごしやすい自然環境の保全にも取り組んでいます。

一方で、品質の高い海外産はちみつも積極的に魅力を伝えていきたいと考えています。ブルガリア大使とのご縁もあって、希少価値が高いローズのはちみつも確保できました。ブルガリア産のローズ・ラベンダー・ひまわりのはちみつをフェア形式で大々的に販売する予定です。

四つ目はデジタルへの移行です。4月からアプリを導入して、来店スタンプや会員向け企画を展開しています。アウトバウンドで電話をかけていた時代から、ECやアプリでお客さまとつながる時代へ。2026年度にはお届け間隔を選択できる購入制度の導入も予定しています。

貫き続ける「ものづくり」の在り方と変える勇気。

私たちが変えないもの、それは根本的な理念と想いです。創業以来培ってきたのが、独自の生産哲学『健やか農蜂業』。これは「大自然の中では、養蜂業も農業もひとつだ」という想いです。

ミツバチと人間が健やかに生きられる地球環境を守ることも重大な使命ととらえ、国内外を問わずさまざまな活動に取り組んでいます。「自分たちにできることはすべて自分たちでやる」という考えのもと、あらゆる工程で手仕事にこだわるのが、当社の貫き続けている「ものづくり」の在り方です。

また、就任直後には月1回の原料ミーティングも立ち上げました。はちみつの在庫がどれだけあるのか、どこから仕入れるのか、価格はどうなのか。現場歴が長いからこそ、「いい商品なのになぜ売れないのか」が肌感覚でわかる。今も自分で店頭に立って、スタッフとコミュニケーションを図り、お客さまの声を直接聞いています。

併せてコスメ商品のリニューアルも行いました。品質はそのままに、容器をシンプルなものに切り替えてコストを下げ、価格を見直した結果、お客さまの数が就任前と比べて約30%増えました。商品には絶対の自信があります。知っていただくことこそが第一歩ですから、より多くの方に届けていけるよう取り組んでいきます。

大事なのは、社員全員が自分ごととして考えて動いてくれることです。「できません」は言わなくていい、「できないなら、どうすればできるか考えなさい」というのが私の軸で、それは父から受け継いだ言葉でもあります。与えられた仕事をこなすのではなく、自分ごととして考えて動ける組織にしていきたい。その変化が一年かけて少しずつ出てきていると感じています。

新卒離職ゼロ。「人を大切にする会社」とは?

社長就任後は社員と対話する機会をできるだけ多くとるようにしています。なんでも意見を言ってほしいと常日頃から発信していますし、私が分からないことはその道の専門家でもある社員に教えてもらう姿勢でいます。

女性だから意見が言いやすくなったという声も聞くようになりました。また、女性比率が高い職場だからこそ、女性ならではの悩みに寄り添える社長でいたいとも思っています。家庭と仕事を両立する大変さも、妊娠中の体のつらさも、育児をしながら管理職を続ける葛藤も、全部自分が通ってきた道ですからよくわかります。

当社では女性の育児休業取得率は100%で、男性の取得実績も着実に増えてきています。先日、育休から復帰したある男性社員が、妻に「良い会社に就職したね」と言ってもらったと話してくれたんです。とても嬉しかったですね(笑)。

管理職だと、特に短時間勤務で退社することに後ろ髪を引かれる気持ちがあるのはよくわかります。でも「子どもが優先、早く帰りなさい」と言える環境を作り、その言葉で安心してくれる社員がいるなら、それだけで十分です。そういった経験を経た人が復帰してきたとき、もっといいリーダーになってくれると信じています。

こうした取り組みが評価されて、女性活躍推進の「えるぼし」3つ星(最高ランク)認定、健康経営優良法人「ブライト500」にも6年連続で認定されました。新卒採用では昨年入社した6名が一人も欠けることなく、素晴らしい成長を見せてくれています。

中途入社でも、ミツバチやはちみつに対する私たちの想いに共感していただける方に来ていただきたいですね。風通しの良い会社、ハラスメントのない職場、女性が活躍できる環境、これが私たちの誇りです。

編集後記

チーフコンサルタント
田尻 由美子

杉社長の言葉の一つひとつに、長年現場で積み上げてきた確かな経験と、お客さま・社員への深い愛情が滲み出ていました。「できないなら、どうすればできるか考えなさい」という受け継がれた言葉は、私自身もハッとさせられるものでした。

創業80年の歴史を背負いながらも、自ら店頭に立ち続ける現場主義の姿勢こそが、杉養蜂園の強さの源なのだと思います。はちみつという商品を通じて、お客さま・社員・地域・自然環境すべてと真摯に向き合う杉社長の経営哲学を学んだインタビューでした。

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