「つなぐ」をキーワードに世界で役立つソフトウェアを開発。
アステリア株式会社
代表取締役社長 平野 洋一郎
熊本県宇城市生まれ。熊本高校を卒業後、熊本大学工学部を中退し、熊本市内でソフトウェア開発ベンチャー設立に参画。1987年~98年、ロータス株式会社(現:日本IBM)でのプロダクトマーケティングおよび戦略企画の要職を歴任。 98年インフォテリア株式会社(現:アステリア株式会社:東証一部)を創業、代表取締役に就任し、現在に至る。
※所属や役職、記事内の内容は取材時点のものです。
日本からソフトウェアで世界をつなぐ。
アステリアは「つなぐ」技術で、新しい時代の企業価値創造に貢献するIT企業です。世界中の輝く企業や人を「つなぐ」エキスパートとして、現在4つの自社製品を開発・提供しています。
主力製品の企業データ連携ツール「ASTERIA Warp(アステリアワープ)」は、異なるコンピューターシステムのデータを“ノーコード”で連携するソフトウェアです。国内シェアは約50%で15年連続国内シェアNo.1(※1)を獲得、大企業・中堅企業を中心に9,000社を越える企業に導入されています。
その他、市場シェアNo.1(※2)のコンテンツ管理アプリ「Handbook(ハンドブック)」は、営業資料や商品カタログ、会議資料などあらゆる電子ファイルをスマートフォンやタブレットで持ち運ぶことができる営業テックのツールとして活用されています。
また、「Platio(プラティオ)」は、ノーコードで簡単に業務アプリが作成できるツールとして注目され、多くの企業や公共機関で採用が進んでいます。さらに「Gravio(グラヴィオ)」はAI機能を搭載したエッジコンピューティング型のIoT統合ソフトウェアです。CO2センサーや人を検知するセンサーなど、さまざまなセンサーから取得したデータをノーコードで迅速に処理し、複数のデバイスの制御やシステムへの通知ができます。
2007年にはマザーズ上場、2018年には東証一部(当時)上場、国内4拠点・海外4ヶ国に事業を展開。子会社にはデザイン戦略コンサルティング企業、AI研究開発企業、IT投資専門企業なども抱えています。20年を超える歴史と実績を持つ会社ですが、AIやIoT、ブロックチェーンなどの先進テクノロジーを業界に先駆けて取り込んだ製品を開発し、常に一歩先の技術と世の中の変化を読みとり事業を展開しています。
※1 テクノ・システム・リサーチ社調べ
※2 アイ・ティ・アール社調べ
上場以来最高益を達成、2021年度は攻めの経営へ。
コロナ禍に対する素早い対策・対応が功を奏したと考えています。中国にある子会社から情報を得て、全社にテレワークの指示を出したのが2020年1月31日、3月末には全社員がテレワーク状態になっていました。
同時に、取引先にもオンライン商談をお願いするなど変化を主導したことで売上を維持できました。また、成長戦略として「4D」(Data, Device, Decentralized, Design)を掲げ積極的な投資を続けています。コロナ禍によってデジタルの進化は加速しており、テレワーク・クラウド化についても、コロナ禍前から手を打っていたことが業績向上に奏功しています。
今期は売上拡大のために、攻めの「マーケティング」「人材獲得」「デジタル維新」に力を注いでいきます。前年度は、コロナ禍という激しい変化への適応に注力することにより、売上を減少させずに利益を上げること、つまり「守る」ことがしっかりできました。一方、昨年度末から試験的にTVCMや交通広告などに投資しています。単に広告宣伝の機会を増やすという事ではなく、新たな市場や価値の創造が主な目的となります。
また、新しい事にチャレンジするには、新しい発想を持った「人材」が必要です。成功体験がある人ほど前例に固執し、新しいアイディアを潰しがちですからね。
今回のコロナ禍は、デジタル維新をもたらしたと捉えています。わずか1年で世の中の仕組みが変わったのです。デジタル維新は不可逆的だと考えています。戻らないということを自分達の事業として成果につなげていく。4D戦略を基に短期的にはC.A.R.(クラウド化・自動化・リモート化)の推進を掲げています。
人材採用や社員が働きやすい環境整備に積極的に取り組む。
新卒採用も始めました。これまでは即戦力の中途採用だけでしたが、コロナ禍で採用を手控える企業が増えるなかで就業機会の創出に貢献しつつ、将来の成長を担う優秀な人材を獲得することが目的です。
国内では、ニューノーマル(新常態)や新しい生活様式の導入による価値観の変化が起こり、テレワークや遠隔授業などの基盤を担うIT需要は旺盛で、優秀な人材の確保は急務です。今年度のグループ全体の採用予定数は前年度比で倍増を予定しています。新卒採用者もテレワーク主体で勤務地は不問、会社説明会や採用面接も全てオンラインで行っています。
また、生産性向上を目的とした多様な働き方にも挑戦しています。2011年の東日本大震災をきっかけにいち早くスタートした全社テレワークの取り組みは、その後「猛暑テレワーク」「降雪テレワーク」「台風テレワーク」「ふるさと帰省テレワーク」などに繋がり、多くのメディアでも取り上げられました。これにより、2020年には「ホワイト企業アワード」で『柔軟な働き方部門』を受賞しました。
オフィス内で仕事をすることはそれほど重要ではなく、よりパフォーマンスを発揮できる環境で仕事をすることが大事だと考えています。「ニューノーマル手当」も福利厚生ではなく新たな働き方への投資です。リモートワークは自宅をオフィスにしてもらうという事ですから、快適な環境を整えてもらうための投資なのです。現在は、大阪・西日本事業所、名古屋・中部エリア事業所、熊本R&Dセンターと、ニューノーマルに向けた施策として1ヶ所にオフィスを集中させない分散オフィスも推進しています。
東京レベルの仕事を熊本で!暮らしやすい場所で思い切りはたらく。
熊本はR&Dセンターです。IT業界では、首都圏の企業が安い労働力を期待して地方拠点を開設することが多いのですが、当社では最先端のブロックチェーンの開発や主力製品である「ASTERIA Warp」の開発を行っています。地方に優秀な人材が定着するためには、東京と同じレベルの仕事をできる事が鍵になると考えています。
デジタル維新により、地方のデメリットが急激に改善されていきます。暮らしやすい、住みやすい環境で、東京に居る時のようなスピード感で思い切り働けたらいいですよね。熊本市はコンパクトだし緑も多い。海・温泉も近くいいところですから。
寄付など、地域貢献の方法はいろいろありますが、『私らしく貢献できることは何か?』と考えたときに、都会と地方を「つなぐ」ことだと思ったのです。熊本出身ですから、知人も多く、行政や経済界との調整もスムーズです。想い入れもありますからね。上場企業の経営者の多くが自身の出身地と繋がっていくと、大きなうねりが出来るのではないかと思います。そんなモデルケースを熊本で創っていきたいと考えています。
熊本への感謝の気持ち。
私は三角町の出身で、農家の長男です。山の中で育ち、木の実を採取したり、秘密基地をつくったり・・・何もないところから自分で何か作り出すという環境が当たり前。自分の感性は熊本で育まれたのだと感じています。
また、中3の頃からマイコンにはまり、あまり勉強もしていなかったけど、自分の居場所があったんですよね。常々恩返しをしたいとは思っていましたが、上場企業の社長が、自分の出身地の支援をするということが、公私混同のように思えて当初は躊躇もありました。
しかし、主力製品の5,000社達成を機に、2015年から小国町と協定を結び、ブランド材「小国杉」の森林保全活動や間伐材利用促進、また林業・林産業の再生に向けた取り組みへの寄付を始めました。さらに2016年の熊本地震によって、『今恩返しをしないでいつやるんだ!?』と考えて躊躇も吹っ切れ、熊本との連携は加速しました。
新しく移転した東京オフィスも小国杉をふんだんに使った温かみのある空間です(写真は旧オフィス)。ノベルティも「脱プラスチック」で小国杉を使用しています。また、2017年度からは一連の地域再生計画が内閣府から「企業版ふるさと納税対象事業」に認定されるなど活動を進化させながら、毎年100万円の寄付金に加えて、当社のソフトウェアを活かした地域貢献も進めています。