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熊本の「熱源」へ。世界につながる、熊本ヴォルターズの挑戦。
熊本バスケットボール株式会社
代表取締役社長 湯之上 聡
熊本市出身。福岡大学卒業後、県内の中学校・高校での講師を経て、2007年にアメリカ留学。帰国後、2009年にNPO法人「熊本にプロバスケットボールチームをみんなで創ろう会」を設立。2012年9月には熊本バスケットボール株式会社設立、代表取締役に就任しプロバスケットボールチーム「熊本ヴォルターズ」を正式発足させる。2020年9月社長を退任、その後は早稲田大学大学院スポーツ科学研究科で経営を学び直すとともに、Bリーグ「アースフレンズ東京Z」を運営する株式会社GWCや桜十字グループで実務経験を積み、2024年3月代表取締役社長へ復帰。
※所属や役職、記事内の内容は取材時点のものです。
「スポーツ×地域」の事業モデルで観客10万人を動員。
熊本バスケットボール株式会社は、熊本県初のプロバスケットボールチーム「熊本ヴォルターズ」の運営に加え、興行運営、スポンサー営業、地域イベント・バスケ普及活動などを行うスポーツ運営会社です。
2024-2025年シーズンは、売上約9億7,000万円と過去最高で2期連続の黒字決算。スポンサー収入、入場料、物販、スクール事業など、すべての部門で前年を上回りました。
観客動員も大きく伸びています。ホームゲーム累計観客数は10万人を超え、満員試合も増加、平均来場者数も3,000人を超えています。
その背景には、「試合=競技」ではなく、「試合=イベント・エンターテインメント」として体験価値を設計できている点があると考えています。
初めて来場された方が「思っていたより楽しかった」「また来たい」と感じてくれる。そうして一度来た方がリピーターになり、家族や友人を連れて再来場してくれる。
この循環が生まれたことが、観客動員増加につながっています。興行ビジネスとして「一過性ではない集客構造」ができてきたことは、経営面でも非常に大きな意味を持っています。
創業の原点はNBAで受けた衝撃。情熱だけで始まった挑戦。

熊本ヴォルターズを立ち上げた原点は、私がアメリカで見たスポーツ文化でした。NBAの試合を観たとき、衝撃だったのは競技そのものよりも、会場全体が街のエネルギーになっているという感覚でした。
年齢や職業に関係なく人が集まり、語り合い、笑い、熱狂する。その中心にスポーツがある。スポーツが「娯楽」ではなく「文化」になっていました。
その光景を見て、「これを熊本に作りたい」と本気で思いました。熊本は決して大都市ではありませんが、人と人の距離が近い街です。だからこそ、一度熱が生まれると大きく広がる力があると思ったのです。
子どもたちがプロスポーツを身近に感じ、選手に憧れ、夢を描ける環境を作りたい。その想いからヴォルターズの構想はスタートしました。
ただ、創業は本当にゼロからでした。資金も、人材も、経営ノウハウもない。営業に行っても門前払いされることも多く、試合の日にはスタッフ全員で会場設営から撤収までやる。
経営の知識もほとんどないまま、「情熱があれば何とかなる」と信じて走っていました。実際、その情熱があったからこそチームを誕生させることはできました。
ただ、クラブが成長していく中で、情熱だけでは続かないという現実にも直面しました。そこから私は経営を学び直し、改めてクラブの未来を考えるようになったのです。
スポーツ経営を学び直し、経営者として再出発の機会がきた。
一度社長を退いた期間は、私にとってとても大きな意味のある時間でした。早稲田大学大学院ではスポーツ経営学を専攻し、「地方都市におけるプロスポーツクラブの経営」というテーマで研究しました。
熊本のような市場規模の都市で、どうやって売上を伸ばし、持続可能なクラブを作るのかを学び直しました。それは過去の自分が正面から向き合えていなかった問いでもありました。
研究の中で、地方のBリーグクラブの社長たちにも直接話を聞きました。そこで気づいたのは、成長しているクラブほど経営者が経営に専念しているということでした。
現場も営業も経営も全部一人で抱えるのではなく、役割を分けて組織で動く。自分はその切り替えができていなかったと気づいたのです。
大学院修了後は、Bリーグの「アースフレンズ東京Z」でマーケティングや興行運営を経験しました。また、桜十字グループでは医療というまったく違う業界の組織経営にも触れました。
その経験から強く感じたのは、「理念」と「仕組み」はどちらも必要だということです。想いだけでは組織は疲れてしまうし、仕組みだけでは人の心は動かない。その両方を設計することが経営者の役割だと理解できたことが、私にとって大きな学びでした。
スポンサー企業と取り組む「共創型スポンサーシップ」。

地元企業を中心に、スポンサー数・協賛金額ともに着実に増えています。
単なる広告枠ではなく、スポンサー企業との関係性は、「キッズサポートプロジェクト」や「ドリームキャラバン」などの次世代育成につながる活動や社員参加型イベントなどを一緒につくる「共創型スポンサーシップ」に進化しています。
スポンサーからも、「広告費というより、地域への投資だよね」「社員の誇りづくりにつながっている」という声を多くいただきます。
企業のブランディングと地域貢献が同時に成立する。これは他のB2クラブにはない大きな強みだと思っています。
過去には債務超過という厳しい状況も経験しましたが、桜十字グループの資本支援によって財務基盤を立て直すことができました。
短期的な資金繰りに追われる状況から脱し、人材採用やDX投資など中長期の成長に投資できるようになったのは大きいですね。
現在、B2リーグの中では事業規模や観客動員の面で上位に位置しています。ただ、私たちの目標はそこではありません。
B1、そしてB.PREMIERを見据えたとき、売上は12億、15億といった規模が求められます。ここから先は、クラブだけではなく地域全体と一緒に成長していくフェーズだと考えています。
挑戦できる職場環境と、情熱だけに頼らない組織づくりを目指す。
私はスキルや経験以上に「熊本への想い」を大事にしています。熊本が好き、この地域を面白くしたい、何かを返したい。そういう気持ちを持っている人は簡単には折れません。
実際、今のヴォルターズを支えているメンバーの多くは、Uターンで熊本に戻ってきた人や、この地域に縁を感じて集まってくれた人たちです。そういう仲間がいるからこそ、クラブはここまで成長してきました。
ただし、想いだけに頼る組織にはしたくありません。スポーツ業界は「やりがい」や「情熱」に頼りすぎて、気づけばみんなが無理をしているというケースが多いのも事実です。
私自身も過去にそのような環境を作ってしまった反省があります。だからこそ、役割・権限・責任を明確にし、正当に評価される仕組みを整えていきたい。
安心して生活できる環境があるからこそ、人は仕事に集中できるし、地域にも貢献できる。その土台を作ることが経営者としての責任だと考えています。
2030年、B.PREMIERへ。そして熊本の「熱源」となる。

2030年に向けて、私たちはB.PREMIERという舞台を本気で目指しています。
ただ、それは単なるリーグ昇格ではありません。私が本当に実現したいのは、ヴォルターズが熊本の「熱源」になることです。
スポーツを中心に人が集まり、地域産業が活性化し、子どもたちが夢を描き、世界とつながる。その中心にヴォルターズがある。そんな未来を描いています。
アリーナ構想も含めて、熊本に新しい交流と誇りを生み出す場所を増やしていきたいのです。地方だから不利だという考え方もありますが、私はそうは思いません。
地方だからこそ、人のつながりが強く、世界とも直接つながれる可能性があります。熊本にはその力があると信じています。
ヴォルターズは、ただ勝つチームではなく、「熊本の誇り」になるクラブを目指しています。
バスケットボールを通じて人と人、地域と地域をつなぎ、熊本の未来を照らす存在になりたい。それが私たちの挑戦です。